孤高の貴公子・最高責任者の裏切り

4/28 椎名の転機

 サブマネージャー補佐兼、修理センターチーフ兼、マネージャー秘書のうちの一つ、秘書業務は無事終了した。

 ほっと一息つく暇もないまま、1日は始まる。

 休日に、少しだけサブマネージャーに用があり、出社してしまったが最後、その手が空くまで待っていたりしているうちにすぐ夜になる。だが今は、やらなければならない事をただこなすので精一杯だ。

 そして今日も夕方、サブマネージャー補佐の仕事を事務室で終えてから配送センターへ戻る。

 椎名が座り込んでいるパソコンを譲ってほしいという気持ちもあったが、とりあえずカウンターで接客を優先する。その作業を終えた頃、須藤が来ていた。彼がここへ来るのは、初日、鍵の受け渡しをした時以来だ。

「お、お疲れ様です!」

 昨日、酔い乱れていたことを急に思い出し、

「昨日はすみませんでした」

 と大きめの声で、まず頭を下げた。

「何? 何も失礼なんて受けてないけど」

 笑いながら言う須藤にほっとして、頭を上げた。

「酒は弱いの?」

「いえ、そんなことはないんですけど。昨日は緊張して…」

「色々あったからね。お疲れ様」

「あ、ありがとうございます」

 再び深く頭を下げた。痴漢事件や、酔いつぶれ事件を色々と済ませ、更に労いの言葉までかけてくれて、本当に命拾いした。頭を上げ、須藤の後ろ姿を見た後、自分の手先を見て驚いた。

「……」

 両手にまとめていたはずの宅急便の送り状が見事に散乱している。

 大きな溜息を吐きながらしゃがんで手に取ろうとすると、すっと隣から女性手が伸びてきて、驚いて顔を見た。椎名だ。

「……」

「昨日、秘書業務で何かあったんですか?」

 口は少し笑んでいるが、目は笑っていない。

「……秘書業務は何もなかったんですけど…帰りに家電の和久井さんと私と須藤マネージャーで食事に行ったんです。和久井さんは私と一緒に住んでて……」

「マネージャーとそれほど親しいんですか?」

「さあ……和久井さんも初めてな感じでしたけど」

「どちらがお誘いに?」

「……」

 別に、隠すことも何もない。

「須藤マネージャーからです。終わった時間が早かったせいと、和久井さんが家にたまたまいたからじゃないでしょぅか」

「あの方はあなたを送って帰ろうとしたということ?」

「……まあ、荷物もあったし、駅から近いので」

「……電車を使われたのね。あの水道事故で」

「混んでて大変でしたよ」

 送り状を拾い終えると、なんと椎名は早退した。食事に行った話の件で気分を悪くしたんだろうなとは思ったが、それはないだろう。何もしなくてもせめているべきだと怒りながらその日を終えた。
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