義兄(あに)と悪魔と私
「……言わないよ」
私は答えた。以前の私なら間違いなく手が出ていたと思う。
だけどここまで必死に冷静を装ってきたのだ。
ここで悪魔の挑発に乗るのは悔しい。
「へぇ、どうして」
「それを選んだのは私だから。でも勘違いしないでね? あなたを許したわけじゃない」
「……心配しなくても、それくらい分かってるよ?」
比呂くんは苦笑した。
全く気にする様子もないのが腹立たしい。
許してくれと懇願されても、それはそれで困るのだが。
では私は、一体この男にどうして欲しいのだろう。
端正な顔立ちも、女の子みたいな綺麗な指も、何でもできる器用さも。
全てが憎らしくて、愛しい。
どうせきっと答えは出ない。
私は懸命に雑念を頭の隅に押しやった。
「ならいいの。そんなことより、聞きたいことが」
あるんだけど、という言葉は飲み込まざる得なかった。
比呂くんが前触れもなく、私の口を手で塞いだからだ。