義兄(あに)と悪魔と私
「帰るの?」
振り向くと、少し慌てた様子の比呂くんが駆け寄ってくる。
「……そうだよ」
答えた私の横を麻実が無言で通りすぎた。私と比呂くんには一瞥もせずに。
「なら、いいんだ」
「心配しなくても、不倫相手に会いに行ったりしないよ」
「別にそういうわけじゃ……」
比呂くんは否定したが、なんとなく嘘だと思った。
「じゃあ、会ってもかまわない? 暇だし」
小走りで教室に入っていく麻実の後ろ姿を見送りながら言うと、比呂くんは途端に顔をこわばらせた。
「嘘だよ。冗談」
私は言ったが、胸のつかえのような違和感がいつまでも離れない。
私のことが心配なんて、もっともらしい理由をつけて、本当は別の何かがあるのでは?
でなければ、ここまで顔色を変えるものだろうか。