義兄(あに)と悪魔と私
 
客間に通されると、そこには既に人がいた。忘れもしない、母の不倫相手。そして母本人。

初老の女は、私を案内するとそそくさと逃げるように退室し、部屋には三人だけが残った。

「よく来てくれたね」

男はソファから立ち上がり、笑顔で私を出迎えたが、母は男の隣でうつむいたまま、微動だにしない。
ショックに打ちのめされ、動けない。そんな風にも見えた。

「お母さん、どうして帰って来ないの?」

私は男が差し出した手を無視し、母に問いかける。
しかし、反応がない。

「帰ってくる気はあるの?」
「まぁまぁ、良子は今落ち込んでるから。とりあえず座りなよ」

詰問する私をなだめるように言ったのは、不倫男。
私は男を睨み付けながら、渋々腰かける。
改めて向かい合うと、男は少し嬉しそうに口を開いた。
 
< 159 / 228 >

この作品をシェア

pagetop