義兄(あに)と悪魔と私
 
「とりあえず自己紹介から始めようか。僕は北見良隆(よしたか)というものだ。
ずっと君とはこうして話をしたかった。だけど良子がどうしてもと嫌がるからね……ずっと会いに行けなくてごめんね」

北見良隆……その名を反芻して、胸のあたりがずんと重くなる。
この家は普通じゃない。ここは本当に母の実家? それとも。

「私はあなたのことなんて興味ありません。母の気持ちを聞きに来たんです。それだけです」

私はできるだけ北見良隆と目を合わせないようにした。
本当のことを知りたい気持ちと、今すぐここから逃げ出したい気持ちが私の中でせめぎ合う。

「嘘だね。君は僕に似て賢いから、もう察しがついているんだろう? でもね、これは僕を裏切ろうとした良子への罰だから、ちゃんと聞いてもらわないとね。この先僕に逆らうなんて気が起きないように」

僕に似て賢い? 吐き気がする。
 
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