義兄(あに)と悪魔と私
「どこまでおめでたいんだ? 少しくらい考えてみなよ。自分なら、家族を壊した売女の娘を好きになれる?」
……ようやく気がついて、震えた。
不倫しているのは私の母で、私はあろうことか母を庇った。不貞の証拠を見た後ですら、だ。
比呂くんが怒るのは当然だと、今なら思える。
(そうか、私が許されるはずないんだ……)
「……いいよ。分かった」
言って私は、比呂くん首に腕を絡める。
「私のこと、許さなくていい。私もあなたのしたこと……絶対、許さないから」
比呂くんは何も言わないまま、せきを切ったように私の首元に顔をうずめ、皮膚に手を這わせた。
きっと気のせいだろう。何故かこの前より
、一つ一つが丁寧で優しく感じた。
そんなはずがない。
これは私を汚す卑怯な手。
受け入れがたい、気持ち悪さも変わらない。
けれどもその気持ちは、諦めに似た何かだった。