君影草~夜香花閑話~
 忍びは忍び働きだけではやっていけない。
 特にどこの大名のお抱えにもなっていないこの党など、元々自力で生きてきたのだ。
 もちろん依頼をこなしたときの報酬は莫大なので、ありがたいのだが。

「家も成ったし、落ち着いたら捨吉から打診があるんじゃないか?」

「祝言か」

 酒を口に運びつつ、真砂が言う。

 捨吉とあきがそういう関係にあるということは、いくら色恋に鈍い真砂でもわかっている。
 だが、なかなか二人とも、そういう話を真砂にしない。

 里の者の婚姻は、ちゃんと皆の前で祝言を挙げる。
 長である真砂に報告なしに執り行うことなどない。

「随分前からそんな感じだったろうに、いまだに何も言ってこんな」

「真砂に遠慮してるのさ」

「俺に?」

 別に真砂は、あきを好いているわけでもない。
 何を遠慮する必要があるのだろう、と眉を顰める真砂に、清五郎は、酒を飲みながら笑った。

「真砂が誰も娶らないのに、若輩者の自分が祝言などとんでもない、と思ってるんだろ」
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