君影草~夜香花閑話~
第十三章
 それから二年の歳月が流れた。
 新たな里は完成し、すでに皆、各々割り当てられた局で生活している。

 真砂は当初の予定通り、南端の離れで庭にそびえる桜の木を眺めていた。

「この桜も、そろそろ咲くな」

 回廊を歩いてきながら、清五郎が声をかけた。

「あきと捨吉、何やら良い感じのようだな」

 庭に面した回廊に座りながら、清五郎が持ってきた酒を振る。
 真砂は囲炉裏に突っ込んでいた竹筒を引き抜いた。
 中に入っていた酒が、温まって、ほわ、と香る。

「下界はまた、ちょいと騒がしくなりそうだな。いよいよ天下が動くとか。忍びも少なくなってきたし、このでかい戦が終われば、俺たちも忍び働きだけではやっていけないだろうな」

「そうだな。ま、ここは土地もいいし、自給自足でもそれなりにやっていける。今までも、行商もしてきたしな」
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