君影草~夜香花閑話~
「は、はいっ」

 慌てて椀を置き、あきは真砂に駆け寄った。
 前に跪き、手を付く。
 やはり、真砂を正面から見る勇気はない。

 真砂の前にいた捨吉が、少し身体を横にずらせた。

「お前、女技はどの程度だ?」

「え……」

 単刀直入な真砂の問いに、あきは言葉に詰まった。
 どの程度か、と聞かれて、どう答えればいいものか。

 というよりそのようなことを、捨吉の前で答えるのか。
 あきは顔を真っ赤にして俯いた。

 その様子に、真砂が小さく息をついた。
 問いに答えないことで怒ったのかと、あきの身体が震える。

 だが真砂は、あきが自分で言わなくても、態度で察したらしい。
 特に怒鳴ることもなく、変わらぬ口調で口を開いた。

「その様子じゃ、まだまだか。まさか俺だけではあるまいな?」

 あきが他の娘に比べて大人しいほうだというのは、他人に興味のない真砂でもわかる。

 だが初めての『狩り』から随分経っている。
 里の女子が女技を磨くのは当たり前なので、狩りを終えれば若者ほど励むものだ。

 いつまでも恥ずかしがっていては、乱破としては失格なのだ。
 男に負けない武芸を身に付けない限り、そんなことは許されない。
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