【完】立花くんは愛し方を間違えてる。
わたしのことを抱きしめるでもなく、ただぐいっと引き寄せて、肩に顔を埋めてくる。
突然の出来事に処理が追いつかない。
「あっ、あの、ちょっ……近い!」
「……いーにおいするな」
「かっ、嗅がないでよ!」
誰か人が来たらどうするの!
そう思うのに。
強い力で引き離せないわたしはどうかしている。
「もっと振り回されろよ」
「え?」
「もっと俺に、振り回されて、俺のことばっか考えて……頭ん中から離れなくなって……」
そんなこと、耳元で囁かないで。
そんな声で。
ねえ、立花くん。
「頭ん中、俺でいっぱいにしてな。
……おやすみ」
少し意地悪で優しい声でそう言い残して。
ひらひらと手を振り、部屋へと戻っていく立花くん。
「……っ」
わたしは声にならない声をあげ、自分の顔を手で覆った。
……赤くなった顔を見られたくなかったから、部屋を出て来たのに。
(こんな顔じゃ、また戻れっこない……。)
───この日の夜は
当然のことながら、眠れるわけがなかった。