遅咲きの恋は花屋にて。
春香は伊藤の言葉を聞くと、
口を尖らせムスッとしながら鳥の唐揚げにレモン汁をかけた。
「川瀬、なんか今日朝から機嫌悪くないか?」
同僚の松田が眉間にシワをよせながら、春香の顔を覗き込んで聞いた。春香はよく伊藤と松田で飲みに来ることが多かった。
「…友達がまた結婚した。」
「また?」
「今年になって2人目よーこれで!去年も1人結婚したの!」
「ああ…。」
春香が朝から機嫌が悪かったのは、昨日家に届いた結婚式の招待状が原因だった。そこまで仲がいいわけではなかった友人からの結婚式の招待状。春香は、自分はただ幸せを見せびらかすために呼ばれただけだと思った。周りはぼちぼちと結婚して幸せになっていくのに、自分は仕事に明け暮れ恋愛どころではない。焦りもあったし、友人の幸せを素直に祝えない自分に嫌気がさしていた。
「先輩、まだ焦る年齢じゃないですよ?
アラサーって言ってもまだ26ですし。」
「私の場合、結婚どころか彼氏もいないのよ?好きな人もいないし、出会いもないし。」
「えっ、好きな人いないの?」
「ヒデ、それ今突っ込むところじゃないから。」
“ヒデ”は、松田の愛称である。松田秀人だからヒデだ。
春香はそう言いながら、松田が吸うタバコの煙を手で払って露骨に嫌な顔をした。松田はすぐにタバコの火を消した。