ダイヤモンドの未来
その時の、私の担当医は50代の整形外科医。

医局長という立場で、一見陽気なおじさん。
看護師とも冗談を言いあったりしていた。
ただ、目の奥に爬虫類のような光りがあった。

私は個室だった。

「キズの様子を見せて下さい。」

医者が一人で病室に入ってきた。

診察用にベッド周りに黄色いカーテンが引かれる。

左足首に触れた手が、パジャマを捲り上げ、太腿までなで上げる。

背中がぞくっと冷たくなった。

「右足もむくんでいないか見せて」

と言いながら、右足にも触られる。

そして、聴診器を耳に掛け、「いちお確認」と、パジャマを捲り、聴診器をあてた。
その動作を執拗に繰り返す。

先生が一人で病室に来ると、それは何度も繰り返された。


そんな風に足に触る必要はあるの?
どうして右足も?
聴診器は必要?


誰に聞くことはできず、父を亡くして、その悲しみの中にいる私は、助けを求める気力はなかった。

それ以上のことがなかったのが、せめてもの救い…

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