鳴かない鳥


あの後、教室に戻った僕は散々な目にあった。

着せ替え人形のように女子に群がられ、着こなしから髪型まで弄られた挙句、メイドの格好をした田畑たちとプレ撮影会と称して写真を撮られまくったのだ。

おそらくそこにいたのは《自分ではない自分》…だったと思う。

はっきり断言できないのは、鏡を見てないから。

執事姿に作りかえられた自分の姿なんて、怖すぎて直視できないよ。

普段こんな目にあった事のない僕は、解放された時には酷く体力を消耗して、まるで冬に開かれる校内10キロマラソンを完走した時と同じくらいグッタリしていた。

田畑や大原たちは服の手直しを、高村たち調理担当メンバーはメニューのレシピを持って、みんな家庭科室に行っている。

今、教室に残っているのは細かい打ち合わせをやっている雑用係と、執事担当の男子数名だけだ。

僕は制服に着替えたもののネクタイさえ締める気になれなくて、だらしのない服装のまま机に頭を乗せ、そこから見える澄んだ空を見つめていた。


あぁ、早く学園祭終わらないかな…。


そんな脱力感いっぱいのオーラを漂わせていると、ポケットに入れていた携帯が着信を知らせる。

画面を見ると、今井花の名前。

服のクリーニングの事もあるからと、昨日メアドの交換をしていたのだ。

メールを開くと、『今日の放課後、会えませんか』という短い文面。


…何かあったのかな。


僕は『いいよ。どこで待ち合わせする?』そう返信する。

すると、『17:00に、昨日の本屋さんで』という返事がきた。

『分かった。じゃあ、後で』了解のメールを送ると、携帯を閉じる。


と、その時…賑やかな声を響かせながら高村たちが教室に帰ってきた。


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