天才に恋をした
しばらくすると、苗の部屋をノックする音が聞こえた。

「苗ちゃん、ご飯持ってきたよ」

姉貴の声だ。


だけど泣き声だけで、返事がない。



「苗ちゃん、開けるよ?」


泣き声が大きくなった。


「どうして、そんなに泣くの~?」


なだめる声が聞こえる。


「みんな、苗ちゃんが大好きなんだよ?それだけなんだから。ね?」



苗の声が、切れ切れに聞こえた。

「わっっ私が…私が来るとっっっみ、みっっんなっっ…ぅぅ…」

「どうして~?みんな、苗ちゃんが来てくれて幸せだよ」

姉貴が柔らかい声でなだめる。



アイツが泣くようなことじゃない。

俺の問題なんだから。


そう言ってやりたかったけど、今はこの距離でいるしかない。


早く…大人になりたい。

大人になって…




目を閉じた先に、何か見えた気がした。




白くて、小さくて、

弱々しくて…




遠くで、泣き声がする。



―早く大人になって、苗を…―



幕が下りるように、睡魔が意識を遮った。
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