天才に恋をした
シアワセは要らない

6-1

とうとう、スタメン落ちした。




陸玖が走り、角田が守る。

俺にとって、サッカーは見るものじゃない。

プレイするものだ。

試合には勝ったけど。

マジで悔しい。




包帯に巻かれた右手を握りしめようとしたけど、上手くいかなかった。



もう乃愛のことも苗のこともどうだっていい。

どうだっていいと思うのに、思えねーのがムカつく。

親父だって、

「苗ちゃんが何も言わないなら、ほっとけ」

そう言ったじゃねーか。



静かで、自分のことさえ考えていればいい生活に戻りてぇ。


苗が一人の時を狙って、俺は聞いてみた。

「お前はキツクないの?」


苗は、キョトンとした顔をした。



「乃愛にずっとマークされてさ」

「キツクない」

「だって、ずっと勉強してるだけだろ」

「うん」

「もっと他の子と遊んだりとか、メシ食いに行ったりとかしたくねーの?」

「なんで?」

「なんでって…そういうのが幸せってもんだろ」



すると、苗が当然のことのように言った。



「幸せなんかいらない」



…は?



今、なんて言った?
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