天才に恋をした
44-2
拍手の音が木々を揺らして、人々が立ち上がり、ほどけてゆく。
あれから、長い月日が経った。
あっという間にも思えるけどな。
宮崎先生の二十三回忌に当たる今年、
旧ヤラダム王国……
現在のヤラダム立法統治国で、宮崎先生の業績を称えた式典があった。
宮崎先生の銅像と一緒に、村の惨劇を後世に伝えるレリーフも建設された。
その除幕式に、貴枝ちゃんの姿があった。
「ああ、やっぱりお母さんに似てるなぁ」
俺が言うと、化粧っけのない顔で笑った。
「姉さんは歳取らないつもりですか?ぜんぜん写真と変わってない」
「いやになるよな。お前の娘かって聞かれるんだ」
「あはははは」
貴枝ちゃんは大学へ入学するときに、養父母から自分が里子だということを明かされた。
だけど、本当はもっと前から薄々気がついていたらしい。
今は病理医として働いている。
「中津川春一さん、覚えてます?」
「もちろん。知り合い?」
「学会で会いますよ。毎回、ウザイくらい子供の写メ見せてくるんです」
式典には、母国で官僚になって異例の出世を続けているシュエも来ていた。
いつか、みんなで集まれたらな……
「本当の親父さんには会った?」
貴枝ちゃんがうなずく。
「でも会話が続かなくって。もう長いこと会ってないですねー」
「うちも子供が出来なくて、六人とも養子なんだ」
「いっぱいいるから、驚きましたよ」
「今、養子以外の子供も含めて十人かな」
苗はレリーフに手をやって、点字のように絵を読み取っている。
そして、まとわりつく子供たちに意味を伝えている。
いつも思う。
アイツのいる所は、時がゆっくり過ぎてゆく。
「昔から、あんな感じだったんでしょうね」
貴枝ちゃんが言った。
俺もその横顔を眺めた。
ひめゆりの塔で、息をひそめて見つめ続けたっけ。
「そうだね。変わってないよ」