天才に恋をした
「さっむ!」



俺は自分の部屋まで駆け上がった。



服!

なんでもいいから服!



ジーンズをはきながら気がついた。

床を姉貴が拭いたらしい。



ようやく落ち着いたら、腹減った…

飯、食おう。

ババア特製ローストビーフがあるはずだ。




あれ?

苗が部屋の前で立ち尽くしている。


「なにしてんだ?」



部屋の中には姉貴がいた。

雑巾を手に振り返った姉貴の頬が濡れていた。


「ご、ごめんね。うちの子、苗ちゃんの部屋も汚しちゃって…」



文化祭で使ったあの絵と言葉が、壁一面に張られている。


「これ感動しちゃった」

「こどもの権利条約だよ。苗が訳した」



姉貴は、もう一度壁に目をやった。



「わたし…」



それ以上、何も言わなかった。

下から、俺たちを呼ぶ子供の声が聞こえた。

< 89 / 276 >

この作品をシェア

pagetop