Sugar&Milk
「え? 修羅場にならなかったの?」
「そんなのなかったよ。浮気した理由も知らない」
怖かったから。知らないところで俺を裏切っていたことが。その人たちに向き合うことが。
「元カノから連絡は?」
「あったけど怖くて話せなかった。無視してたら連絡すら来なくなった。そのまま先輩とも疎遠になっちゃったし」
「なんで問い詰めなかったの? 私なら現場を見たらその場で怒って聞いちゃうけど」
「そうだよな……」
あの時は頭が真っ白になった。
なんで先輩が? とか、俺のこと好きじゃなかったの? って色んな思いが浮かんだのに、俺の足は彼女のところではなく遠ざかるように動いた。裏切られた事実を受け入れるのが怖かった。今も昔も何も変わっていない。
「中山くんってさ、イケメンだし真面目だし優しいけど、臆病者だよね」
はっきり言われて目を見開く。
「大胆なことをするときもあるんだけど、傷つくと自分を守ろうとする」
「…………」
「被害者意識が強いのかな?」
「…………」
「相手が謝るまで待つタイプ?」
「ちょ……」
「自分が傷つけられたと思ったら一方的に怒るでしょ」
「それ以上言わないで……」
容赦のない言葉の数々に落ち込んで自然と頭を掻きむしった。
「ごめん。はっきり言いすぎるとこ、私の悪い癖で」
「いや……うん……大丈夫。本当のことだし」
相沢の言ったことは正しい。俺は勝手に傷ついて相手と向き合うことを避ける臆病者だ。
早く大人になりたかった。それなのにいつまでも成長しようとしないで逃げている。
「彼女さんはちゃんと話を聞いてくれるし、自分の気持ちを話してくれる人だと思う。だから中山くんが怯えなくていいんじゃないかな」