Sugar&Milk
◇◇◇◇◇



ガシャン! とカップが割れる音で我に返る。足元には粉々になった陶器のカップが散り、相沢やお客様の視線が俺に集まる。

「失礼いたしました」

相沢がお客様に詫びると俺の足元に屈んで破片を拾う。

「中山くんがカップ落とすなんて珍しいね」

「ごめん……」

俺も屈んで拾おうとすると「中山くんは塵取りと箒持ってきて。あと新聞紙ね」と手を前後に振って俺を追い払う仕草をする。

「分かった。持ってくる……」

「集中してない人に割れたもの触らせられないからね」

相沢のイラついた声にますます落ち込む。集中できていないのは本当だから反論のしようがない。

『もう会わない。復縁なんてできないから』

朱里さんがホームで言った言葉が聞こえた瞬間足の力が抜けて転びそうになった。聞きたくて堪らなかった会話を聞いてしまったら朱里さんを連れ去ることしか考えられなくなってしまった。どう見ても元カレだろうその人は俺のコンプレックスである朱里さんと年の近い男。

復縁したいって言われたの? 今でも会ってたんだ? どれくらいの間付き合ってたの?

聞きたいのに朱里さんに聞く勇気が出なかった。こんなことを聞く重い男になりたくない。過去の恋愛なんて気にしていない心の広い男でいなければ。だからもっと集中しろ俺!

カップの破片を片付け終わると、何の前触れもなく自動ドアから山本さんが店に入ってきた。

「あ、どうも……いらっしゃいませ」

今会いたくない朱里さんに関係する男の登場に更に動揺してしまう。

「あ」

レジの前に立つ山本さんを見ると相沢は一瞬で嫌そうな顔をした。そんな相沢を怪訝に思った。

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