Sugar&Milk
「朱里さん、お待たせ」
俺の声に振り返った朱里さんは相沢を見て驚いた顔をする。
「えっと……」
そういえばこの二人は店で会ったことはあっても紹介したことは無かったな。
「バイト仲間の相沢です」
「こんばんは。初めまして、相沢といいます」
相沢は珍しく満面の笑みで朱里さんに視線を向けた。
「こんばんは……」
朱里さんは緊張しているのかぎこちなく挨拶を返した。
「相沢とは今日ラスト作業が一緒だったんです」
「これからデートなんですよね。ラブラブで羨ましいです」
相沢は真っ直ぐ俺だけを見て話しかけた。
「そんなとこ」
「じゃあお邪魔な私はさっさと帰ります」
「邪魔なんて、そんな言い方すんなよ」
「だって早く二人きりになりたいでしょ」
「うるせー」
相沢とは遠慮のない会話もできるくらいの仲ではある。バイトでは同期でも俺の方が年上なのに全く敬わないから拍子抜けする。
「じゃあね」
「お疲れ様」
相沢は朱里さんに「じゃあ失礼します」と軽く頭を下げた。
「あ、はい、どうも……お疲れ様です……」
俺たちに背を向けると、相沢は颯爽と駅構内を横切り事務所とは反対の階段を下りていった。
「相沢はここが地元なんです。家が駅から近いらしいですよ」
「そう……」
朱里さんは気のせいか顔が引きつっていた。
「疲れてる? ごめんね、会社出る時間を俺に合わせてくれて」
「大丈夫だよ」
「俺らも行きますか」
「うん……」
改札を抜け、手を繋いでホームを歩いた。
朱里さんはあまり話さなくなった。疲れが溜まっているのだろうか。
「朱里さん、大丈夫?」
「え? うん、大丈夫だよ」
「疲れた?」
「うん……年末は忙しいね」
俺に笑顔を見せたが、目がどことなく困惑している。