Sugar&Milk
「食べに行くんじゃなくて、どこかで買って家で食べる?」
「え?」
「その方がゆっくりできるでしょ」
元々家の近くの店に行くつもりだった。今からだと閉店時間を気にしなければいけないけどテイクアウトなら関係ない。
けれど俺の提案に朱里さんは乗り気じゃないように見える。
「家ってことは……泊まりかな?」
「うん。泊まってくれたら嬉しい」
いつ朱里さんが来てもいいように歯ブラシの予備も旅行用の小さなシャンプーや洗顔料も買った。ペアの食器も百円ショップで揃えてある。
「ごめんね……今夜は着替え持ってきてないの」
「俺の服で朱里さんが着れそうなの貸すよ」
「下着ないし……」
「コンビニで買う?」
それでも朱里さんは煮え切らない。まるで泊まることが嫌かのように。
「ご飯食べたら帰るね」
「え?」
「明日仕事だから」
「休みじゃないの?」
「仕事になったんだ。だから泊まるのはやめとくね」
俺と目を合わさずに告げられた言葉に動揺した。デートの後は俺の家に来るのが恒例になっていたから、そうじゃないパターンは予想していない。
「うん……分かった。疲れてるのに会ってくれてありがとう」
朱里さんは無理やり笑顔を作っているようだ。俺が気にしないように言葉を選ぶ。こんな態度の朱里さんは見覚えがある。付き合う前の俺と会ったときと、元カレと会った直後。
店での食事の最中も朱里さんは何となく元気がないような気がした。目を合わす回数が減って俺のバイトの話も聞きたいわけではなさそうだった。だから山本さんが来たってことは話さなかった。俺の口から男の名前を出したくないっていうのもあった。
何か悩んでいることがあるのだろうか。そしてそれは俺には話しにくいことだったらどうすればいいのだ。また俺の知らないところで彼女の気持ちが離れていってしまう事態は避けたいのに。