ハイカロリーラヴァーズ

「……っ!」

 爆音が耳にぶつけられた。うわぁ……すごい音。それと……前が見えない。見えないよ! 音しか聞こえない。入って、後ろでドアをガチャンと閉められる。身動きが取れない。背伸びをして様子を伺うと、ステージで演奏するバンド、フロアいっぱいの客、入口のあたりまで人がみっちり入っていた。なんだこれ、これ以上は進めないよ。

 いっぱい入ってるじゃん……良かった。よく見えないけど、あんまり歌の巧くないボーカルが歌っている。歌は巧くないけど人気があるんだなー。5人バンドだった。青司は居ない。トリじゃないな。

「今日は来てくれてありがとー。crimson主催のイベント呼んでいただいて、僕らも盛り上がって行こう!」

 あまり歌が巧くないボーカルがMCでそう言った。

 ああ、そうだった。青司のバンドは「crimson」っていう名前なんだった。招待チケットを貰っておいて、バンド名を聞くのも忘れていたし。よくよくチケットを見たら「crimson主催」と書いてあった。そういう名前だったのか、いまさら気付く。

 それから何曲か聴いて「ラストー!」とファンを煽り出した。ああ、これが終われば青司のバンドか。ちょっと窮屈だけど、もう少しだからがんばろう。ひとりだからなんだかちょっと辛い。ラストの曲が終わったら人が少し出るだろうから、ラウンジでドリンク飲んでいよう。青司のバンドが始まったら入ろう。

 あたしの後ろには追加で入ってきた客が数人立っていた。タイミングを見て出なければ。

 曲が終わって「じゃあーね!」「またなー!」とかボーカルが言って、声援が上がり、ステージ上のメンバーがはけて行った。照明がダウンし、客電が点く。ラウンジに移動しようか……。

 そう思って後ろを向くと、タイミング良く入口ドアが開いた。あたしの後ろに居た人達も出るだろうから、一緒に……。

「……え? えっえっ」

 ドアが開いたのは、人が出るためではなく、入ってくるためだった。ラウンジから次々に人が入ってくる。

「え、ちょっ……出られな……」

 押し寄せる女子、女子、女子。たまに男子。

「やっとクリムだよー」

「前の子と交代の交渉してたからー」

 きゃあきゃあとした声と共にあたしは押し流されて、入口から遠ざかってしまった。まずい。もう出られない。

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