ハイカロリーラヴァーズ

「このままバックレる」

「は? だめだよ戻ってよ」

 本気でバックレる気なの……なんなのこの男。

「いいよもう、俺が居なくても困らないから。打ち上げだし、みんな疲れてるんだし適当にあと帰るだろ」

「だって……」

「今日はいいんだよ。もう撤収は済んでるし機材は車に乗せてあるし、リュウセイ居るし」

 無理にでも断って、ひとりで店を出れば良かった。

「なに、今日はって。主催者なのに途中でって……」

「リュウセイが居るから大丈夫。華さんひとりにできない」

「なん……」

 打ち上げとバンドとあたしを引き合いに出すの、おかしい。次元が違うし、そういうことを言うの、正しく無いと思う。

「俺が、居たいって言ってんの。だめなの?」

 歩くのを止めて、振り返ってそう言う青司。何人もの人があたし達を通り過ぎて行った。その中で、青司だけがあたしを見ている。さっきの、ライブの時と同じだ。
 ずるいよ。そんなことを言うなんて。

「あたし……」

 なんて答えれば正解なんだろう。まるで駄々をこねる子供みたいな青司に、いまはどう接して良いか分からない。

 本当は、家に帰りたくなんかなかった。他の女と会って帰ってくる源也に、会いたくなかった。

「華さん、なんか……あったの?」

「……」

 熱い空気は、頬と涙の温度差を分からなくしていた。うかつにも、青司の前で涙を見せている。

「なにも、無いよ……」

 帰らなければいけないんだから、帰るんだ。あたしは……ここで青司と別れて。

「華さん、なぁ、行こうよ」

 手をつかまれた。この手を振り払って、帰らなくちゃいけないのに。ずるいのは、あたしの方かもしれない。最低の、女。

「そんな風になってるのをこのままにして、俺が戻れると思ってる?」

「ごめん」

 みんな、歩いて行く。あたし達だけ止まっているみたい。前にも後ろにも行けないで。ひとりと、ひとりで。

 街のざわついた熱い空気がまとわりついて、なかなか頭の中身が冷えていかない。

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