て・そ・ら


「あー、佐伯さん髪の毛切ったんだね~!めちゃ可愛いよ~!!」

 教室に入って一番初めに自分に飛んできた声がそれで、あたしは硬直して止まる。

 ・・・・・・・え?今、あたしにいいましたか?

 教室の入口側にいた女子数人に、口々に褒められるなんて経験をしたことは勿論ない。

「おー!サラサラじゃん!」

「ほんと、凄く長かったもんねぇ!よく似合ってる~!」

「ええと、ありがとう」

 きゃあきゃあと囲まれるのが恥ずかしくてぼそぼそとそう言い、自分の席へと逃げた。

 ・・・ああ!ビックリした!うわああお!髪型を変えるってこんなにも恥かしいものなのか!

 ずっと伸ばしっぱなしだったあたしは、そんな経験をしたことがないのだ。教室に入って外見が変わったことに気がついたクラスメイトに褒められる、それってこんなにふわふわして恥かしいものだったんだ!そう思って、顔が赤くなったのが判った。

 なんか、視線を感じる気がする・・・。だけどきっとそれは自意識過剰ってやつよね。そうは思っても振り返れない。体を出来るだけ小さくして、椅子に座っていた。

 斜め後ろ、はるか向こうにいる横内を見ることが出来ない。

 だってだって、彼があたしを見ていたらどうする?それで目なんか会っちゃったらどうする?

 その場でブンブン頭を振りたい欲求に必死で耐えた。

 そんなことないはず。だって横内は眠りん坊だもん。あたしのことなんか見てないはず。さっきの女子達の声は大きくてクラス中に聞こえたかと思ったし、いつもはギリギリに教室に入ってくる横内が既に自分の席に座っているのは視界の端で確認済みだけど!


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