て・そ・ら


 それを言えば今日のこんな二人のことも思いだして、自動的に笑顔になれるような、そんな言葉。

 ―――――――テトソラトラケット・・・テ、ソ、ラ・・・。

 あ、いいかも。テソラ。おおー!・・・いいかも、それ。


 ちょっとボーっとしてしまっていた。

 隣からコホンと、小さな空咳が聞こえて、あたしはハッとする。それと同時に横内の声が聞こえてきた。

「あのさ、佐伯」

「うん?」

「その・・・9月に、廊下の角でぶつかっただろ?」

「あー、うん。痛かったよね、結構吹っ飛んだよあたし。君は鼻も打っちゃって」

 それで、流血までしちゃって。あたしは薄情にもプリントに血がつかないようにって急いでかき集めたんだったっけ。

 そうだ、それがそもそも、横内を気にしだしたきっかけで―――――――――――

 あたしが思い出して頬を緩めていると、隣に座った彼が言いにくそうに続けた。

「うん、あれは滅茶苦茶痛かった。・・・だから、さ」

「ん?」

 何でこんなに歯切れが悪いの?そう思ってあたしはつい、彼を覗き込んでしまったのだ。そうしたら、照れた顔の横内がいた。

 え?あたしは驚いてつい凝視する。・・・照れてる、この男の子。あれ?だってどうして?ぶつかったってことは別に照れることじゃ――――――――――

 小さくなった声で、彼がぼそっと呟いた。


「・・・痛くないやつ、しないか?」



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