て・そ・ら


 それからサンキュ、と短くお礼を言ってノートをあけ、今日やるのだろう問題集に猛然と答えを書き写しだす。

 結構な速さだった。

 ・・・おお、真剣になれば、それだけのスピードでシャーペンを動かすのか。あたしはつい観察してしまってそんなことを思う。

 早いわ、って。

 5分やそこらで、彼はあたしが1時間はかけてした予習を全部うつし終わった。それでもまだ休み時間が余ってるくらいの早さだった。

「わお」

 あたしは小さな声で感想を漏らす。それはしっかり横内に聞こえたようで、彼はちょっと笑ってあたしにノートを返してきた。

「マジで助かった。ありがと」

「あ、いえいえ。昨日物理で助けてもらったし・・・。てか、横内君でも貝原先生は怖いんだ?」

 あたしの言葉に彼はあはははと声を出す。

「だってあれはキツイだろ。出来なかったら恐怖の朝学習だし。俺今クラブがハードでそれに出てる余裕もないしさ」

 ああ、そうか。あたしは頷いた。

 恐怖の朝学習。それは、貝原先生のクラスで予習を忘れたもの、テストで赤点をとったものに課せられる、午前7時半からの数学特訓だ。

 あたしも一度出たことがある。あれは、本当に恐怖以外の何者でもなかった!

 朝から始発で学校へいき、朝学習に参加する生徒は視聴覚室に集められる。そして、自分が解けなかった問題ばかり100個ほど連なるプリントをバン!と目の前に置かれるのだ。


< 33 / 119 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop