て・そ・ら


 放課後の部室では、後輩のよく通る声が響いていた。

「空色の定義。空色というのは、あくまでもよく晴れた昼間の空の色。・・・英語でのスカイブルーとは、夏の晴天の10時から15時の間、水蒸気や塵の少ない状態でニューヨークから50マイル以内の上空を、厚紙にあけた直径1インチの穴から約30センチ離れて覗いたときの色(出典:Wikipedia「空色」より)。・・・なんじゃそりゃ」

 あたしの横で、後輩のヒカリちゃんがスマホを片手にブツブツ言っている。彼女はつい先月美術部に入ったばかりの1年生で、今回の展覧会には参加していないから、どうやら暇らしい。部室にきて予習復習をしては先輩達の間をうろうろと歩き回って愛嬌を振りまいていた。

 いつもの美術部の部室。今日も油くさい部屋の中で、ひたすら絵に没頭していたあたし。その横に来て、本日のやることを終わらせたヒカルちゃんがいきなり空色の定義を調べだしたのだった。

 スマホから顔を上げて、彼女は大きな目をくるりとまわしてあたしの絵を指す。

「つまり、佐伯先輩の描いてる青は、スカイブルーではないってことですよね?だってちょっと夕暮れに近い時間の空なんでしょう、これ?夏でもないでしょうし。だって紅葉真っ赤だもんね」

「そうだけど・・・。でもスカイブルーって、そんなに長い厳格な条件があったんだね、知らなかった」

 苦笑するよね。何よそれって、ヒカルちゃんじゃなくても言いたくなる長さ。大体誰なのだ、最初にそう決めた人間は。


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