て・そ・ら
どうやらいつの間にかあたしの番になっていたらしい。
丁度試合の交代時間らしく、ざわめいている男子達の何人かが、女子コートを眺めているのが目に入った。
・・・おお、何てこったい。
全くちゃんと打てないのに、こんなタイミングで男子が見物するとは、何のいじめだ、こりゃ!どうかどうか、横内は見てませんように。
「いくよ~!」
あたしの相手の相田さんが張り切った声でそう叫ぶ。綺麗なサーブ。あたしはその瞬間、やる気を放棄した。
だ~めだ、絶対に勝てない・・・。
結局あたしは体育の時間中、端っこの方に座り込んで目立たなくし、黄色いボールが青空に浮かぶのを眺めていた。
結構綺麗かも・・・。早いボールも遅いボールも、幸せな色をばら撒きながら弾んでいるようだ。スポーツを見ていてそんな感想を持ったのは、初めてのことだった。
きっとこれは、空色の魔法だ。だって上を見上げて、そこに晴天がある、それだけでかなり清清しい気持ちになれるのだから。例えば嫌いな何かでも、青空の下であればちょっとは楽天的な気持ちで取り組めるっていうのはさ、ほら、魔法にかかったようなものだと思うわけで。
弾むボール。
一瞬で消えていく黄色。
ずっと広がっている青空。
響く音。
それから、眩しい日差し。
ラケットで器用にボールを集めて回る横内を盗み見る。黙々と動いていたけれど、教室では見れない嬉しそうな、元気な姿がそこにはあった。
好き、なんだろうな、テニスが。
・・・ふうん。なんか、いいな。