て・そ・ら


 いつもこの部室を使う時間は夕方で、街一番の夕日が見えるこの学校の一番眩しい教室ゆえに締め切っているカーテンも、全部勢い良く開ける。ついでに滅多に開かれない窓も開けて、ほぼ強風といっていい風を招きいれた。

「日もよく当たるんだから、当然風もよく入るのよね・・・」

 一瞬で撒き散らされたデッサン画をかき集めながら、優実がうんざりした声で言う。それから一緒に集めているあたしを振り返って、にやりと笑った。

「男テニ、試合始まってるね。勝ちますようにってお祈りしなきゃ、七海」

「・・・あ、そう」

 あたしは呟くように答えた。そうか、もう試合は始まってるんだ。横内は頑張ってるのかな。

 床に膝をついて更に近寄りながら、優実が小声になって言う。

「七海のクラスの眠りん坊は、シングルスもダブルスも出るってよ。勝てばマジで、テンション上がるはずよ」

「・・・ふうん、そう」

 あたしの愛想のない返事にもかまわず、優実はニヤニヤと笑っている。

 シングルスって、つまり?などとあたしが考えていたとはきっと知らないだろう。本当にルールも判らないあたしだ。・・・多分、ダブルスってのは二人でするんだよね、きっと。

 よく通る風の威力もあって、しばらくすると油絵の匂いがマシになった。机を整理してまずは水彩画の絵筆やパレットなどを全員で並んで洗いまくる。

 それから油絵用の絵筆達。こっちはちょっと手間がかかるのだ。絵の具を布で拭い取ってから専用のクリーナーで絵筆の先を洗い、さらに石鹸とお湯で洗い流さなければならない。全員でやっても筆や板の数が多くて、それだけですぐに3時間は経ってしまったのだった。


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