て・そ・ら


 『ファーストキスは、痛かった。』


 あたしは小学生の時から続けている一行日記にそう書き込んだ。

 帰りの電車の中だった。

 高台にある高校の最寄駅は同じく高台にあり、毎日夕日の眩しい中を、電車で空を飛ぶような感覚で下の町まで降りるのだ。

 しかも、あたしが乗る時間は客数が極端に少なくて、一車両を独り占めできるというラッキーな時も結構頻繁にあるほどだった。

 勿論、帰宅部が下校するもうちょっと早い時間だったり、サラリーマンもついてくるもうちょっと遅い時間だったりすればこの廃線を心配するほど人の居ない路線の各駅停車電車だってそれなりに一杯になる。

 だけど、この時間。

 美術部に所属して、季節によって多少の変動はあるにしても大体夕方の4時半になったら自主的に帰宅するあたしが乗る時間は。

 いつでも世界中はオレンジ色で、ビルも田んぼも人も車も一斉に単色に染まる。このあと強烈で鮮やかな赤やピンクになり、ゆっくりとベゴニア色の薄い残像を残して太陽は街の彼方に沈み、そのあとは濃紺の夜が来る。

 彼方に見える都会の明りは強く眩しく、あたしが住む街は星空が見えるような真っ黒にはどうしたってならないのだ。

 よく言って、濃紺。群青にもうちょっと灰色を足したような空の色。

 あたしはそのどれもが好きだったけれど、この強烈なオレンジ色の時間に電車に乗ることは愛してるといっていいくらいだったのだ。




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