て・そ・ら


 あたしだって負けるのは嫌だ。すごく負けず嫌いかと聞かれるとそうではないとは思うけど、やっぱり人並に悔しいとか悲しいとかの気持ちを感じたことは今までもたくさんある。絵でも、運動でも。

 元々運動するのはそんなに嫌いってわけではなかったから、もしかしたら負けるのが嫌で運動部には入らなかったのかも。勝ち負けがハッキリわかってしまうのが嫌で。そう思ったことは一度もなかったけど、でももしかしたら。

 今度の展覧会だって、自分の為に書いてるってずっと言ってたし、思ってた。

 だけど展覧会に出すという事は、批評されるということ。優劣を決められるということ。本当に自分のためだけだったら、そもそも出したのかな?

 ゴロゴロゴロ。

 転がっても転がっても眠れなかった。

 あたしの大切な世界、大切な色を描きたかった。だけどそこに、ちょっと格好つけてしまったかもしれない。あたしの表現欲だけじゃあなくて。格好つけたってのが、よく判る作品になってたかもしれない。

 どうよ、あたしはこんなのが描けるのよ、って。そんな傲慢なところが。

 ・・・あううううううう~・・・・。

 頭からすっぽりと布団をかぶって、悶え苦しむ。

 横内の白いキャップ。赤いラケット、黒い鞄。それから黄色いボールを見詰めるあの目が。

 様々な色彩の渦になって頭の中を回っている。

 ぐるぐるぐる。

 ぐるぐるぐる。

 その夜は、とても疲れる夢を見た。



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