て・そ・ら


 だって席も違うし、彼には朝錬も昼練もあり、ぎりぎりに教室にきて、誰よりも早く教室を出て行ってしまうのだ。委員会もクラブも違うあたし達には席が隣って繋がりしかなかったのだって、さまざまと見せ付けられた2週間だった。

 お礼も言いたかったのにな。

 お守りのお陰で耐え切れたって。・・・いやいや、それは直接的すぎるか!それなら「君が好きです」の方が恥かしくないかもしれないぞ!・・・いやいやいや!そりゃあ告白の方が恥かしいに決まってるわよあたし!

 一人でジタバタして、心の中の恥かしい「告白シーン」を消しゴムで消しまくった。

 彼を思い出してちょっと凹んだ気持ちで、あたしは顔を上げる。

 まだ夕焼け時間は続いている。だけど、次の乗換駅では乗客がきてしまうはずだ。だからあたしの一人じめ出来る時間はこれで終わってしまうのだ。

 曇りや雨でなく、大きな雲はあっても素晴らしい夕焼け。

 それを久しぶりに見れたことで喜んでいたはずの気持ちも、横内のことを考えて萎えてしまうのがつらかった。

 ・・・うわあ、あたし、本当に好きになっちゃったんだなあ!そう思って。

 それだけ、あのクラスメイトの男の子が影響あるんだなあ、って。

 もう一度話したいのに。

 同じクラスにいるのに、やたらと遠い男の子だ。

 山を下りていく電車の中、ため息を零してから、あたしは通路の真ん中に立つのをやめて座席に座る。

 大人しい高校生に戻る時間だよ。もう、ここはあたし一人の世界じゃなくなるんだから。

 ちゃんと部活に最後まで出れば、男テニの帰りである横内に会えるかもって、判っていた。電車で会えば喋ることが出来るかもって。あっちからも話かけてくれるかもって。

 だけど、それでもあたしはこの時間をとってしまう。大切な時間なのだ。

 ・・・ただ、勇気がないだけかもしれないけど―――――――――――



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