て・そ・ら


 ・・・こんな時間が無駄だと思うんだけど。もうさっさと終わらせて解散するのがいいと思うんだけど。ってか横内、君も歌が苦手なのかい?

 全く傍観者の気分でそんなことを思っていたら、まさかの飯森さんの指摘がこっちにまで飛んできた。

「それからそこ!佐伯さんと渡辺さんも!二人は歌ってるかもしれないけど声が小さいよ~。お腹から声出してね」

 ・・・う。

 わざわざ振り返ってまで見るクラスメイトから逃げるために顔をふせる。確かに声はかなり小さかったけど・・・バレてたのか。恐るべし、飯森さん!

 あたしの隣に立っていた渡辺さんが小さく呟いた。

「歌いたい人だけ歌えってーの」

 あたしは心の中で大いに同意する。まったく、その通りだよ!

 パンパンと両手を叩いてざわつくクラスメイトを静かにさせ、飯森さんは血管が切れてそうな顔で怒鳴った。

「はい、もう笑うのやめてよ!クラブにもいかなきゃならない人いるんだから、次で今日は終わりにするから!ちゃんと声だしてよ、佐伯さんと渡辺さん。それから口パクは禁止よ、寺坂君と横内君!」

 ・・・はーい。あたしは心の中で返事をした。

 さんはい!そう声を張り上げて、飯森さんが指揮をはじめる。

 ピアノの担当になっているのは竹崎さん。何でも出来そうな美少女だけど、やっぱり何でも出来るんだなあ~、あたしは彼女のサラサラの色素の薄い髪を羨ましく眺めながらそう思った。

 ・・・あたしの重くて長いだけの黒髪・・・。もう切ろうかな。

 まあ切ったところで、竹崎さんのようにはならないんだけど。

 もうため息しか出てこなかった。


< 84 / 119 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop