女子力高めなはずなのに
井川さんは私を見ないまま少し微笑んだ。

「この間は飯作ってくれてありがとう。おかげですっかり良くなったよ」

「……うん」

そして、そのままスタスタと歩いて「じゃあ遅くまでお疲れ」と軽く手をあげると、井川さんは部屋を出て行った。


一人になったら部屋が広く寒く感じた。

なんだろう。
急にすごく寂しい。

また涙が出そうになる。

井川さん、ひどいよ。

抱き締めたりして。

あの体温が離れただけで、寒くて寂しくてたまらなくなる。

あの腕の中に戻りたいと思ってしまう。

どうして私のことなんか抱き締めたりしたんだろう。

……もしかして井川さん、私のことを心に決めた人の代わりにしようとしてる?

片想いみたいだし。

だから、あんな風に強く抱き締めたの?

誰かの代わりでもかまわない、なんて気持ちが沸き上がってくる。

でも、だめ。
そんなの私、幸せになれない。

そんなの、もっと耐えられない。

……しっかりしろ!私!

ダメなものはダメなんだから、いい加減前向きになろう。

もう、ウジウジしない!

井川さんは一緒にいると楽しくて、気兼ねしなくていい上司。

そうだよ!

すっかり忘れてたけど、井川さんはヨレヨレねずみ色の色白やせ眼鏡だもん!
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