女子力高めなはずなのに
両手で私を囲むように手すりを掴んだその手を見て、すぐに分かった。

この手は井川さんの手……。

追いかけてきたの?

こんな包み込むみたいにして、慰めるつもり?

賭けの対象になんかされて、まんまと騙されてたなんて、バカみたいだもんね。

優しいんだね?

好きでもないのに追いかけて来るなんて……。


「ごめん」

頭の上から声が聞こえた。

なんで井川さんが謝るの?

謝られたら、もっと惨めになる……。

「本当のことを言ったら傷つくと思って、言えなかったんだ」

「ん……、もう、いいよ」

「お前、……アイツのこと好きみたいだったからさ」

……?

あ、そうだ。

そういえば私、「私だって好きな人いるもん」とか言っちゃったんだ。

なんという恥の上塗り……。

井川さんは、私が好きな人に賭けの対象にされていた、本当に可哀想な子だと思って慰めに来てくれたんだ。

今さらだけど、そのくらいは否定しておきたい……。

「……あれ、嘘、だから」

「ウソ?」

「うん……、ごめん!あれ、嘘だから!だから心配しないで。大丈夫だから、もう帰って!」

涙を見られたくなくて振り向かないで前を見たまま言った。
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