女子力高めなはずなのに
「アイツのこと好きだから泣いてるんじゃないのか?」

「だから違うって!」

しつこいな!

これはアンタを想って泣いてるんだよ。

もうほっといて。

「ずっと知ってたんでしょ?可哀想だと思って助けてくれてたんでしょ?……それは本当に感謝してる。でも、慰められたらますます惨めになるの!だから、もうほっといてよ!」

大きな声で叫ぶように言った途端、両肩を掴まれて、勢いよくクルッと向きを変えられた。

突然のことにグラリと目が回る。

目の前に井川さんのネクタイ。

見上げたら、真剣な瞳がすぐ目の前にあってハッとした。

またその瞳……。

その真剣な黒い瞳、吸い込まれて切なくなって、胸の奥深くまで刺さって痛い。

だから、そんなに見つめないで。

届かない私の想いを見透かされているみたいに思えてくる。

切なさに耐え切れず、涙がこぼれ落ちた。

次の瞬間、少し苦しげな瞳をしたように見えた直後、あっという間に顔が近づいて唇が重なった。

それは、目を閉じる間もないくらいあっという間で。

でも動きの一つ一つはスローモーションみたいに流れていって……。

柔らかく重なって、密着して、すぐに離れていった。

呆然とする私を見つめて、井川さんは首を傾げたまま不満げな顔をした。

「目、閉じてくんない?」

「……?」
< 267 / 325 >

この作品をシェア

pagetop