キャッチ・ミー ~私のハートをつかまえて~
「全部」って・・・「全部」だよ、ね。
ふと目に入った野田さんのパンツを見て、私は今頃「全部」の意味に気がついた。

・・・私、男の人の下着見たことないわけでもないんだし。
恥ずかしがる年でもないよね。
と言い聞かせながら、洗濯物を次々と乾燥機へ入れた。

だけどやっぱり、野田さんの下着を入れるとき、私の顔は赤くなってたと思う。
それに、乾燥機のスタートボタンを押してる野田さんのごっつい手を見ながら、「野田さんってボクサーショーツはくんだ」とか「濃紺が多い」なんて考えてるし!

「はい、以上終わり・・・何」
「はっ?ううんっ!いえっ!何も、特に・・・」としどろもどろに言う私を、腕を組んでる野田さんは、ニヤニヤしながら見ている。

うぅ。何を考えてたのか見透かされてるみたいで、恥ずかしい・・・。

野田さんの顔から視線を下げた私は、逞しい腕のラインに一部巻かれている白い包帯を、ひたすら見ることに専念した。

あ、包帯が動いた。
と思ったら、野田さんが歩いていた。
私もつられるように野田さんの後に続く。

「俺のパンツ見た?」
「やだっ!もう野田さんっ!いきなりそんな・・・こと言わないで!」
「いいじゃん。俺、ひーちゃんにならパンツ見られてもいいしー」と言う野田さんの声は、完全にその場を楽しんでいる。

だから私は逆に、ヘンに恥ずかしがることを止めた。


「で、どーする?」
「どうするって、何がでしょう」
「洗濯機」
「あぁ・・・はい」
「これから買いに行くか?俺も一緒に行けるし」
「え!あの・・野田さんの申し出はとてもありがたいんですけど、給料日まで待たないと・・・」
「給料入るのいつ」
「25日なので、あと3日だけど、仕事があるから、次の週末に買いに行こうかな、と」
「それまで洗濯どーすんだよ」
「どうって・・・買うまで我慢しないと・・・」
「あぁ?1週間もガマンすんのか?」
「え。だって・・・」
「溜まるだろ。かなり。おまえガマンできんのか?俺1週間もガマンできねえ」
「そ、そんな、こと言われても・・・急な出費になるから、今すぐには買えないし」

いや。
それより「溜まる」とか「ガマンできない」って言う野田さんの言い方がなんか・・・エッチな感じに響いてるって気がしたのは、私だけ?・・・だよね。
野田さんは、至ってフツーな顔をしてるし。

「じゃー修理頼んでみっか」
「・・・あ。そうですね」

その手があったということに、野田さんに言われるまで気づかなかった。

「ちょっと待ってろ」と野田さんは言うと、ソファから立ち上がって、キッチンの方へ歩いて行った。
そしてダイニングチェアに座ると、テーブルに置かれているノートパソコンを開く。

その間に私は、冷めかけたカフェオレをゴクゴク飲みながら、ほんの少しだけ野田さんの姿に見入っていた。

「・・・あった。ひーちゃん」
「はいっ」
「洗濯機のメーカーと型式分かるか」
「あ・・・型式は分かりません」
「だよな」と野田さんは言うと、椅子から立ち上がった。

「今からおまえんちに行くぞ」
「え。あぁはいっ」

・・・修理を頼むのに、洗濯機の型式が必要なのか。
野田さんって本当に気が利く人だ。
なんて思いながら、私は急いで自宅の鍵を開けた。


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