むせかえるよな倉庫の片隅で
後日……。
「センター長、そういえば背中の怪我の具合、いかがですかぁ~?」
ある朝、後輩がのんびりとデスクにいたセンター長に聞いた。
「ああ……もう良くなったよ。あざも消えた」
「そっかぁ~。良かったですねぇ~」
「でも、違う傷が増えた」
「えっ?」
首をかしげる後輩の横で、私はそちらを見もせずに、パソコン画面に向かう。
すると、センター長のこんな言葉が聞こえてきた。
「最近飼いはじめた猫に爪を立てられるんだ。
いつもはデレたりしないんだけど、たまに甘えてくるとバリバリとね」
「ええ、背中にですかあ?それって、甘えてるんですか?」
不思議そうに言う後輩の横で、私は激しくせき込んだ。
誰が猫だ!
あのあと数回食事をしただけで、アッサリ落とされた自分が情けないやら、悔しいやら……いや、結局は背中に爪たてちゃうくらい幸せなんだけどさ。
「あのう、欠品……」
またパートさんにたずねられる。
「はいっ、私が探しますよ!」
私はその場から逃げるように、コートを着て軍手をはめ、事務所を出た。
倉庫の片隅からは、相変わらず混沌としたお花畑の香り。
私もいつかは、香りある女になれるだろうか。
胸いっぱいに香りのカオスを吸い込んで、私は寒い倉庫の中を駆け抜けた。
【完】


