裏腹王子は目覚めのキスを

「いつものことだから」と、桜太がみのりちゃんに説明をしている。
 
お父さんは諦めたように新聞紙を手にとり、それをばさりとめくりながら、隙あらば仕事の話に戻そうとメガネの奥の目でさりげなくわたしをうかがっている。

「じゃあ俺、みのりを送ってくる」
 
ひとりできゃっきゃっとはしゃいでいるお母さんを横目に、弟が誰にともなく言うと、わたしはすかさず席を立った。

チャンスとばかりにお母さんの声を遮る。

「わたしも行く」

「は、姉ちゃんも? なんで?」

「みのりちゃんと、もう少し話したいし」
 
本当はこの場から逃げ出したいだけだけれど、と思いながら弟の彼女に笑いかける。
 
母のピンク色の妄想質問と、父から容赦なく突きつけられる現実の厳しさを、一身に受け続けるなんて苦行もいいところだ。

「羽華子ちょっと~」と叫ぶお母さんに、

「行ってくるね」と笑顔で答え、わたしは弟たちのあとを追って玄関を出た。



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