裏腹王子は目覚めのキスを
「ああ、もう行くよ。ほら、羽華」
「あ、はい。それじゃあ、ごちそうさまでした」
住宅に挟まれた並木通りは車の往来が少ない。
歩道にずらりと並んだ総勢7人に見送られながら、わたしとトーゴくんはキャリーバッグを転がし、バス停に向かって歩き出した。
「ばいばーい、トーゴお兄ちゃん、羽華お姉ちゃん」
「うん、ばいばーい」
振り返って子どもたちに手を振っていたら、アスファルトのくぼみに足を取られた。
「うひゃっ」
よろめいた瞬間、横から伸びてきたトーゴくんの手がわたしの肩を支える。
「っぶねーな」
「ご……ごめん」
「っとにお前は。ちゃんと前見て歩け」
「すみません……」
謝りながら、声が上擦りそうになるのをこらえた。
肩に、掴まれた感触が残ってる。
キャリーバッグを引きながら、トーゴくんのあとに続いて角を曲がる。
夕日に照らされて、王子様の影は足元に細長く伸びている。それを見つめながら、気持ちを落ち着けようと息をついた。
なに、ときめいてるの、わたし。
キャスターの立てるガラガラと耳障りな音を聞きながら、気を引き締めるために唇を結ぶ。
なんでもない動作なのに、動揺しすぎ。
下ろしていた左手に力をこめたとき、その手を、いきなり掴まれた。