裏腹王子は目覚めのキスを
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結婚式で奪い去られる花嫁に憧れていたように、わたしは正直に言うとプロポーズのシチュエーションにも憧れを抱いていた。
ふたりの思い出の場所で、あるいは夜景の見える素敵なレストランで、もしくは今流行りのサプライズ演出もいい。
感動的なシーンで花束や指輪の入ったケースを渡される。
そんなロマンチックなプロポーズを、少なからず期待していた。
指輪をくれる相手が誰なのかまでは具体的に考えていなかったけれど、ただ漠然と、夢を見ていたのだ。
だって結婚は、今後の人生を共に歩む人を決める、大切なイベントなのだから。
そう訴えると、電話の向こうの桜太が苦笑した。
『まー、分からなくもないけどさ、別に普段通りの場所でプロポーズしたっていいじゃん。そういうのが苦手な男だっているし。ある意味サプライズじゃん』
「確かにびっくりはしたけど……、じゃあ桜太はみのりちゃんにどうやってプロポーズしたの」
『えー俺は普通に、車で送り届けたときに車内で。結婚しようって――って、おい! 何さりげなく言わせてんだよ』
怒りだす弟の声を聞きながら、わたしは黒いソファにもたれた。
時刻は午後八時。
トーゴくんはまだ会社から帰ってきていない。
夕食の準備だけしてあるダイニングテーブルを見やりながら、わたしはため息をついた。