裏腹王子は目覚めのキスを

「あ……うん、十月……」

「羽華子の予算もあるだろうから、行きたい場所は羽華子が決めて。ビーチリゾートね。場所さえ決めてくれたら、あとの手配は僕のほうでするから」
 
考える間もなくさくさく言われて、わたしはただ彼の言葉を頭の中で繰り返した。

「来月に、ビーチリゾート……旅行……って、えっ、ま、待って」 

「じゃ、僕会社に戻らないと。まだ仕事が残ってるんだ」

「えっ」

「もうあまり日にちもないし、候補の場所が決まったら早めに連絡して」
 
口早にそう言うと、健太郎くんは空になったアイスコーヒーのグラスを返却口に返して、のしのしとお店のドアをくぐっていった。


「えええ……?」
 
上半身が支えを失ったみたいに揺らいで、わたしは背もたれに寄りかかる。
 
カフェに入ってからわずか二十分足らずの急展開。
頭の中はパニック寸前だ。
 
面接に落ちて、結婚を申込まれて、婚前旅行……?
 
落ち込んだり喜んだりといったわたしの感情が働く前に、次々と思いもよらないことを言われて、もうわけが分からない。


「結、婚……?」
 

椅子にもたれながら確認するようにつぶやいた声は、店内のざわめきにあっけなく埋もれた。


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