裏腹王子は目覚めのキスを
 
トーゴくんは幼い頃から王子様みたいにきらびやかな存在で、小さなわたしは彼にずっと憧れていた。

意地悪で、口も悪くて、いつも『バカ子』とからかわれていたけれど、ひとたび笑顔を向けられると、どうしたって胸は華やいだ。
 
それはきっと今も同じ。
トーゴくんの素の笑顔は、わたしの心をむずむずと刺激する。
 
でもわたしが中学に上がる頃になると、高校生のトーゴくんは“王子様の微笑み”を身につけて、いろんな女の子に手を出すようになった。
 
たくさんの女の人に囲まれて歩いていってしまう背中を、わたしはただじっと見守るだけだった。
 
どうすれば自分に有利に物事が運ぶかを常に計算をしている黒い心とは裏腹の、至極純粋な笑みで、女の子を虜にしてきたトーゴくん。
 
遊びの関係ばかりで、真面目に恋をしていないのだと思っていた。
 
でも、どうやらそれはわたしの思い違いだったらしい。
 

――本気で好きだと思った相手だっていたよ。
――しねえよ、浮気なんて。
 

いつかの彼のセリフが、泡のように記憶の底から浮き上がる。
 
幾度となくした本気の恋が、すべて叶わなかったということは、つまり、顔に出さないけれどトーゴくんもたくさん傷ついてきたということだ。
 
そんな彼がまた、本気の恋をしたのなら。
 
結婚したいと思える相手を見つけたのなら。
 
わたしはそれを応援したいと思った。
 
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