裏腹王子は目覚めのキスを
 
インドネシアの島を提案すると、健太郎くんはホテルの予約から航空券から、旅行の手配をすべてひとりでやってくれた。

そしてわたしは同時進行でパスポートを申請し、人生初の旅券を手に入れた。

「日本国外務大臣て書いてあるー」
 
空になったパスタの皿を脇によけて、わたしは改めて自分のパスポートを眺めた。
 
少し緊張した面持ちの自分の顔写真と、アルファベットや数字の羅列。申請カウンターで渡されるときに入念にチェックをしたのに、間違い探しをするみたいに何度も読み返してしまう。

「うれしそうだね」
 
静かに言われ、わたしは顔を上げた。

「うん、なんだか新しい世界への鍵を手に入れた気分」
 
声を弾ませると、健太郎くんは小さくうなずいた。
 

健太郎くんの仕事が終わるのを待って一緒に入ったイタリアンレストランは、カジュアルな雰囲気で若い女性客が多い。

女の人特有の華やかな空気の中で、健太郎くんだけが森の中の湖面みたいに静かだった。

「ありがとね、手続きとか、全部やってくれて」

「うん」と答えて、彼はコップの水を口に運ぶ。

「健太郎くんは海外行ったことあるんだっけ?」

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