裏腹王子は目覚めのキスを

「ああ、何回かね。海外ってそんなに好きじゃないけど、結婚して子どもができたら簡単には行けないだろうし、行けるうちに行っとこうと思って。羽華子、リゾートしたいって昔言ってたし」

「え、そうだっけ?」

「うん、前の会社にいるとき」

「ああ、そうだったかも」
 
ひとり暮らしをしていた頃、仕事に忙殺されていたわたしはテレビのコマーシャルで見た南国リゾートの風景にすっかり魅了されたことがあった。

実際は近場のスパリゾートに行くことで、その欲求の大半が満たされたのだけれど。
 
あまり外出が好きではない健太郎くんは、今回、旅行代理店を通して手続きを進めてくれたらしい。
といっても、機内泊を含む二泊四日の旅行は添乗員がつくツアーではなく、航空券とホテルの予約を代行してもらっただけの実質、個人旅行だ。

ホテルに着くまでは、自力で現地の交通機関を使って移動しなければならない。
 
おまけにビンタン島には空港がない。そのため近くの島からフェリーを使って行くことになるらしい。

つまり、一旦隣の国に入ってからフェリーに乗り換えて、やっとビンタン島へ着くのだ。
 
わたしにとってははじめての海外なのに、自分たちで移動しなければならないというのはだいぶ不安だけど、健太郎くんは飄々としている。

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