裏腹王子は目覚めのキスを
わたしのほうこそ分かってるよ。
騒いでいた胸が不意に静まっていった。
まるで潮が引くみたいに、ゆっくりと、音も立てず。
トーゴくんは昔から、身近にいる女の子にだけは手を出さない。
同じ学年の子とか、部活内の女子だとか。
付き合っても浅い関係で終わらせるだけだから、あとのことを考えて面倒な位置にいる女の子は避けるのだ。
自由奔放に振る舞っているように見えて、内心ちゃんと計算している。
合理的で、感情を排除した、トーゴくんの黒い部分だ。
「まあ俺も、この部屋をどうにかしてくれるんならありがたいし」
女の人を連れ込めるようになるから? と口にしたい気持ちを押しこめて、マグカップの紅茶を口に含む。
人の気も知らず、王子様は整った顔を崩して屈託ない笑みを見せた。
「よろしく頼むな、バカ子」
「……羽華子です」
こうしてわたしは、幼なじみの王子様と、彼の部屋が片付くまでという期間限定で、一緒に暮らすことになったのだった。