裏腹王子は目覚めのキスを
「本当に、いいの?」
「ああ、機内サービス来たら起こしてやるから、心配すんな」
「そんな心配してない……」
頬を膨らませると、トーゴくんは笑いながら腕を伸ばしてわたしのシートのボタンを押した。
背もたれが倒れ、足元が上がっていき、リクライニングの体勢になっていく。
「おやすみ、羽華」
「おやすみなさい……」
高度一万メートルの上空で、となりに彼の気配を感じながら瞼をおろす。
視界が閉ざされると、ふと、これは夢なのかもしれない、という思いがこみ上げた。
起きたらマンションの簡易ベッドの上で、この旅行がすべてが幻だったことを知るのかもしれない。
これが夢なら……醒めないでほしい。
そんなことを考えながら、深い意識の底へと落ちていく。
裏腹王子のキスで目が覚めるのは、あと2時間、先の話。
裏腹王子は目覚めのキスを。
*END*