裏腹王子は目覚めのキスを
理不尽な扱いを受けているにもかかわらず、わたしの頬は緩んだ。
トーゴくんの照れ隠しが、どうしようもなく愛しい。
家の中と外とで顔を使い分ける器用な性格なのに、気持ちを素直に表に出せない不器用な一面も持ってる。
ふと、彼のシートが滑らかな動きでポジションを変えていく。
エコノミー席の倍以上の空間を占めるフラットな態勢になると、トーゴくんは言った。
「機内サービス来るまで寝て起きるわ」
「あ、わたしも寝ようかな。ここのとこ、寝不足だったから……」
口元を両手で覆ってあくびをすると、上半身を起こしたトーゴくんがこちらを見る。
その顔に、ふいに悪戯っぽい笑みが浮かんだ。
「ああ、寝て起きれば? 俺が起こしてやるから」
「え、トーゴくんは寝ないの?」
「やっぱ仕事するわ。片付けときたい書類があったんだった」
「え……」
わたしの心配が顔に出たらしい。彼はシートを起こしながら「ああ、気にすんな」と面倒そうに手を振った。
「お前が寝ててくれたほうが、仕事に集中できる」
言いながら、カバンからノートパソコンを取り出してテーブルに広げる。