裏腹王子は目覚めのキスを
これまで二週間、一緒に過ごしてたけれど、トーゴくんは明らかに仕事でエネルギーを使い果たしていて、掃除や洗濯にまで手が回っていない。
そんな状況の彼をひとりで置いていくのは心配だけど、家族でも彼女でもないわたしが、これ以上彼の傍にいる理由にはならない。
「わたし、明日地元に帰るけど、ごはんはちゃんと食べないとダメだよ?」
トーゴくんは何も答えず、ビールの細かな泡を眺めていた。
料理が運ばれてきて、テーブルを彩りよく埋める。
「わー美味しそう。いただきます」
取り皿に炒め物をよそっていると、彼は灰皿に煙草を押し付け、心持ち真剣な表情で「お前さ」と話し出した。
「もともとこっちで働いてたんだろ? なんで地元に戻ったわけ。転職すんならこっちのほうがいろいろあるだろ」
「それは……」
斜めに切れ目のはいったイカを箸でつまみながら、わたしは言葉を探した。
トーゴくんの言う通り、地元で職を探すより都内で探したほうが仕事は見つかりやすい。それでなくても地元は失業率が高いのだ。
実際、職業安定所で求人案件を探してみたこともあるけれど、都内に比べれば条件を絞り込むこともできないくらい働き口は少なかった。
弟のように恩師のコネがあるならまだしも、わたしのように体調不良でブランクが開いてしまった人間には希望に沿った職探しは一層難しいのかもしれない。
トーゴくんは料理に口もつけず、じっと視線をよこす。その深い瞳は、なんでも見透かしてしまう、怜悧な光をたたえてる。
きっと、下手な言い逃れは通用しない。
わたしは腹をくくった。