恋の捜査をはじめましょう

「ははっ、少しはドキッとした?」

無邪気に…笑ってんじゃないよ、バカ。
流されてもいいかもって…ちょっとだけ、幸せな夢を…見てしまったじゃあないか。


私は…赤くなっている顔を隠すために、下を向く。……と、そこに。先程落ちた瓶…、『スイミンバイバイ』のラベルが…目に入った。

私は…、いたずらっぽく笑う柏木をキッと睨み付けて。

決意新たに…こう答えたのだった。



「したよ。馬鹿みたいに…ドキドキ。」

ヤツの顔つきが…、急に真面目になる。



そうだよ、ウジウジしているのは…私らしくもない。

ただでは起き上がらない、それが…私、『鮎川 潤』って…女だ。



私は、フロアの上に横たわる瓶を拾い上げ、蓋を…開ける。

勢いを失った、炭酸の弾ける音が…まるで、私の中で燻っている気持ちを象徴しているみたいだと…思った。


ヤツから目を…逸らさない。
逸らしてなんか、やらない。


柏木が…そうしたように。
私はぐびっと…残り全てを…一気に口に含んでー。

喉の奥に出かかった言葉も皆…飲み込んだ。

炭酸の…刺激と。
正体不明の…苦味が。
喉の奥を…刺激する。


これは…、柏木と私の、間接キス。


さぞかし、ポーカーフェイスで傍観するのだろうと…思いきや、ヤツは若干…口角を上げて。

優しい眼差しを…ただただ、こちらに向けるのだった。

ヤツの瞳の奥に…、私の姿が、ハッキリと映し出されている。


「ご馳走さま。お陰で…目が覚めました。」

空になった瓶を…柏木へと押し付けて。
ニッと笑って…見せる。


今はまだ……、小さくて、隠し通せる想いなのかも…しれない。

でも、きっと…アンタと居れば、気持ちが大きく膨らんで、いずれどうしようもないくらいに…溢れ出てしまうのだろう。


だから…、少しだけ。
アンタに…気づいて貰いたかった。

今の私が、アンタにどう映っているのかは…知らない。

それでも。私が想う10分の1、いや…100分の1でいい。
ほんの…少し、異性として、女として…意識して…欲しかった。


些細な…反抗の、つもりだった。



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